解禁日の渓流釣り

これは随分昔のことになる。

余りにも強烈なショック
を受けて、忘れ得ぬ苦い想い
出であるが、なぜか懐かしくて
毎年その時季になると心に蘇る。

そして又もう一度同じ挑戦をして
みたいと楽しませてくれるお話です。

ここでは、その固有名詞は
控えさせてもらうが、私が渓流
釣りにのめり込んでいた頃のお話です。

我が家から出発して
現地まで、片道2時間半を
要する渓谷の釣り場で、

その道のりは、高速道路を乗り継いで
約1時間、一般道から山間部は入って
治水ダムまでが約1時間を要し、

そのダムから更に奥へと30分以上
走って辿り着くと、小さな山村がある。

そこでは渓谷の水を利用して
ヤマメやニジマスの養殖が行われている。

そして、その養殖場では一日に
1組か2組だけの民宿も兼ねている。

2月28日解禁日の前日、
お昼過ぎに出発して午後3時頃
その養殖場兼民宿に到着した。

山の日暮れは早いので、到着後すぐに
明日の釣りに備えて、釣れそうな場所
・釣りやすい場所を下検分して回った。

民宿に戻ってからの夜の宴会には、
山女魚やまめ料理をはじめ深紅色をした鹿の刺身や、
猪のボタン鍋で大いに盛り上がった。

明朝は5時
起床の6時出立と決めて床に就いたが、
小学生の時の遠足の前夜の如きで、
ワクワクしてなかなか眠れなかった。

従ってウトウトしたか
と思えば忽ち夜が明けていた。

寝不足ながらも、
待ちに待った解禁日の
興奮で、勇み立つ思いを抱いて
外に出てみると一面の雪景色である。

一夜にして降り積もった
新雪の上を歩くと、キュッキュッ
と雪を踏みしめる音がする。

いっときも早く釣りたくて
走りたくなる程であるが、
昨日下見をした現場に着いてみると、
既に2~3人が釣りを始めている。

仕方なく次の候補地へ行ってみると、
ここも既に釣り人が釣りを始めている。

その次も同じで、もう
何処にも釣り場所が無いのだ。

そこで初めて気がついた。

それぞれの釣り場の傍らに、
焚き火の跡が見受けられる。

つまり、その場で焚き火を
囲んで夜を明かしたのだと思われる。

私たちが宴会をして大名釣りを
決め込んでいたのが甘かったのだ。

それでも、そんな
間抜けな私たちを笑う者は居なかった。

それは、かつては自分たち
も受けた試練だったのか?。

否そうではなく、釣ることに忙しくて
私たちのことなど眼中に無いのだった。

見ていると誰もが
入れ食い状態で、釣果は100
尾超えが保証される程の釣れ方である。

羨ましいのと癪なのと、
悔しさ紛れに川沿いの縁から
低木越しに、釣り竿を伸ばしてみたところ

、釣り糸の先端が川面にやっと
届いた状態なのに、25センチ位
の山女魚が跳びつくように釣れたのだ。

これに味をしめて更に
繰り返してみると又釣れた。

勿論3尾ほどが限界
であったが、釣れた時の魚体が
銀色で覆われて、これは違う魚種か
と思った程の姿であったが、その銀色
の鱗の下にパール模様が隠されていた。

もう一度、
あの渓流のあの場所で、
今度は抜かりなく挑戦を
してみたいのであるが、

世情の成り行きから、今は遠く離れた
地に転居を余儀なくされているので、
叶えたくとも叶え難き夢となっている。

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