左前になる

こんにちは、湯豆腐です。

「左前になる」という諺がある。意味を説明するまでもないことであるが、物事が思うようにならぬこと、運が悪くなることである。ところが、そのことを何故に、左前と表現するのかについては紛らわしいものがある。「左前」の語源は、着物(和服)の左衽(おくみ)(襟)を下にし右を上にして着ることで、普通とは反対という意味である。

左と右とでは、左の方が「不運・不良」という意味が込められているが、しかしながら「左団扇(うちわ)」という言葉には、左手で団扇をつかうことで、それは安楽な暮らしのできる境遇のたとえであり、また「左利き」という言葉には、酒に強い人・酒を楽しむ人のことをいい、なかなか望んでも叶えられない恵まれた境遇なのである。

ここに込められている深長な意味は、日本人は利き腕は右なのが普通である、右利きが正常という潜在意識が基になっている。その第一の要因は、日本の文字の文化である。 現代に於いては、万年筆やボールペンが隈なく普及して、いわゆる硬筆文字が一般的になっているが、昔は毛筆で文字を書くのが主流であった。今でも、書道をするには左利きで筆文字を書くのは、殆ど不可能なことだと言わざるを得ない。その為に、昔は幼少の頃から右利きに矯正されていたと思われる。

更には、現代に於いても茶道の作法には、左利きのお点前は存在しないといわれ、右利きと同様のお点前を行なうことになっている。 そして、「右に出る者がいない」という言葉のように、最右翼が最も優れているという意味になっている事からも、右の方が正しく優れるものとされている。従って「左遷」といえば地位が下がることであり、がっかりさせられる事である。

しかし、紛らわしいのは「左大臣・右大臣」と表現されるもので、左大臣の方が上位であること。これは、左と右に加えて中央という思想が存在するもので、中央(正中(せいちゅう))が最上位で、正中は天子さまの玉座である。玉座から見て左側に居るのが左大臣で、見る方向によって違うのである。つまり天子さまを仰ぎ見る方からは、玉座に向かって右側に居るのが左大臣となる。

このことは、ひな人形の飾り方にも表れている。一般に、関西地方では男雛(内裏雛のうち天皇をかたどった人形)が向かって右、関東地方では、男雛が向かって左に位置するとされているが、有職故実(ゆうそくこじつ)に照らし合わせての解釈は、関西の場合、中央に男雛そして向かって左側に女雛、向かって右側は空席にしていることになる。従って、関東の場合は、向かって左側を空席にしていることになる。

現代に於いては、左利きは「サウスポー」と言い換えて、野球の投手などでは貴重な存在とされており、左利きも右利きも自由という思想が一般的になっている。 しかし、守るべき日本の文化が存在している事も忘れてはならない。「左前」に着物を着るのは、普通の着方とは反対で【死者の装束に用いる着方】、これは日本の葬送文化である。

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